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すけっち

26〜7年前、駆け出しの私は2時間ドラマの美術助手の仕事をいただきました。新潟ロケ、群馬ロケそして都内ロケが主体で、スタジオでのセット撮影が行われたかは今では記憶が定かではありません。実はドラマの内容がどんなだったか全く記憶が無いのです。

監督は早撮りで有名なH監督でした。人間的にも愉快な方で「夜はお酒を飲む時間だー!」と公言している方で、メインスタッフは監督が大好き。各パートの助手まで監督の意見に大賛同する夜の強者たちが集まっておりました。オール・スタッフ打ち合わせでは、台本に数多く書かれている「ナイター・シーン」を「ディ・シーン」に変更、どうしようも無い場合は「つぶし」の撮影に切り替えて、打ち合わせは、驚くほど早く終了いたしました。

メインスタッフの綿密な?ロケ・ハンのおかげなのか連日撮影は快調、クランク・インしてからの監督は冴えわたり、スタッフは今何の撮影かも判らない程の猛スピード!昼過ぎの3時〜4時には撮影終了、連日「なか空き」がある順調な撮影が続きました。ロケは温泉や行楽地、宿泊は温泉宿、20代前半で喰い盛り、飲み盛りの私は宿でたらふく食べては飲み、その後先輩にスナックでゴチになり、支払いのときはお店のお姉ちゃんの膝の上で爆睡と極楽のような作品でした。

順調に前半戦が過ぎ、連日の痛飲でスタッフにも疲れが出始めたある日、美術・装飾部は唯一の先発ロケ飾りで、持ち道具のH原さんに撮影現場を託し、装飾のY田さんと私は美術トラックに同乗し、美術のN村さんに説明を受け
たロケ現場の農家に向かいました。美術のN村さんは「東京で準備がある!」と言い残し二日酔いの体で昨日帰京していました。N村さんとは宴会中に簡単に打ち合せをしただけでした。装飾のY田さんもN村さんから撮影現場の説
明を受けておらず「まあ、行けばなんとかなるだろう?」などと言っていました。私はY田先輩の連日の『ゴチ』に
報いなければと勇んでトラックに飛び乗りました。

「着きました〜!」と大声で美術車両の運転手さんに起こされたY田さんと私は、連日の痛飲がたたり、出発したと
たん爆睡、到着したのもわからないほど眠り惚けておりました。

トラックを降りていくと製作進行のK田さんが到着していて「多分この家だと思うけど、住人が誰もいないんだよ」とK田さん。「地図分かりにくいね〜、この家だよね?」と車両部さん。Y田さんと私が合流し「しかしこの家、ロケがくるのに、玄関先から散らかしっぱなしで、ずいぶんきったね〜(汚い)なぁ」と秋田訛りのY田さん。私も目が覚めてきてよく見ると、お宅は田舎の山里の村はずれ、中規模の茅葺きの農家で、奥に納屋があり、味のある佇まいだが、ひどく散らかっていた。ようするに片付けが出来ていない家だった。

「こんにちは〜!」と声をかけるも返事もなく、平日なので持ち主の家族は田んぼか畑に出ていると考えられる。この家の住人は撮影には興味が無く「忙しいので勝手にやって下さい!」と言わんばかりでした。ロケに来る主演女優さんは学園ドラマの不良役で一世風靡し、歌手としても大人気の女優のMさんでした。今年タレント候補として政界に進出し、参議院議員に当選した方です。「Mさんを知らないなんてこの家テレビ無いのかな〜?」と私。当時携帯電話は無く、ロケ本隊ともロケ先では連絡がとれない状況でした。進行のK田さんが近所に住人の出先を聞きに行ったのですが、数件あるお宅も不在でした。縁側で2〜30分、住人の帰宅を待ったのですが現れず、早撮りの監督のこと、そろそろ撮影隊がこちらの現場に向かうのではないかと思われ、焦りが我々を支配しました。

協議の上「準備開始しよう!」と施錠されていない玄関戸を開けて中に入りました。土間から上がった板間の囲炉裏と座敷周辺がメインの撮影現場ですが、失礼ながら入ってビックリ!何しろ板間や座敷全体が散らかっていて、洗濯物は部屋中干しっぱなし、財布や小銭も囲炉裏端に置きっぱなしでした。このままでは撮影出来ず、準備を進める為、全てを一度綺麗に片付けて丁寧に掃除し、持ち込んだ飾り道具、小物等を搬入して撮影準備完了しました。忙しく働いたため、お酒は全部抜け、気分は爽快でした。

撮影が終了したあとの現状復旧の為、片付けたものを細かくチェックすると、板間を埋め尽くす様に干してあった洗濯物に、色っぽい下着がいくつも干されてあり、年頃の娘さんが1〜2人が同居しているのが見てとれ、若い私がドキドキしたのを覚えています。

ほっと一息ついた頃、監督を筆頭に撮影隊、女優のMさんが到着し撮影の準備が始まりました。いつもの素早いペースで各パート手際良く準備していきます。女優のMさんが私に「トイレは何処ですか?」と聞いて来たので「この奥だと思います!!」と丁寧に教えてあげました。しばらくしてトイレから出て来たMさんは近くにいたマネージャーに「トイレが汚たなすぎて私には使えない。我慢するわ!」と言っておりました。

ロケ現場での撮影は確か2シーンだけで、監督は絶好調!あっという間に撮影終了。本隊は次のロケ現場にテキパキと移動していきました。私とK田さん、Y田さんは感謝しながら丁寧に掃除をしながら、後片付けをさせていただきました。終了後、トラックに乗り込み、Y田さんと一緒に旅館に戻ります。撮影隊も農家からの移動後の撮影も無事に終わり宿舎の旅館に戻ってきました。

温泉に浸かって今日一日の疲れを取り、今夜も宴会です。装飾のY田さんや持ち道具のH原さん、進行のK田さん、技術パートの助手仲間と宴会場で乾杯を重ねていると「ちょっとロビーに来い!」とK田さんの上司が宴会場に慌ただしく入って来てK田さんを呼び出しました。その後製作担当が来て宴会場の上座でご機嫌で飲んでいる監督やメインスタッフに何やらこそこそと話し始めました。

トイレで席を外していたY田さんが戻り「ロビーで製作や演出部が大騒ぎだ〜っ!実はさぁ、今日のロケ現場の農家、ロケ・ハンで決めていた家と違う家だって〜!」とY田さん。「え〜、それ本当ですか!」と一同。「隣村の家がロケ交渉した現場で、その家の人や村人は、お茶を出して、まだロケ隊が来るのを待っているって!」とY田さん。「でも・・・、撮影終りましたよね」と私。「撮影した家が近所の人にロケ隊が来たことを聞き、帰ったら勝手に家に入ってロケしていったことが判って、あちこち探してこの旅館に怒鳴り込んで来たみたいだ!」とY田さん。「ヤバいですね!」と私。「あわてて本当のロケ現場の住人に連絡したら、こっちも激怒し『これからでもロケ隊をよこせ〜!』とかなりの剣幕みたいだぜ。ロケが来るのを楽しみにしていたみたいだよ」とY田さん。「女優のMだけでも行かせれば〜。」とそろそろ出来上がって来たH原さん。ふと見ると監督は赤い顔を上気させかなりご立腹の様子。

ご立腹の上座の方々と、何も知らないで盛り上がっているスタッフ達のあいだでいつになく静かな我々。小声で「おい飲みに行くか!」とY田さん。「行きましょう・・・」の私。「何処行くの〜!」と完璧に出来上がったH原さんとでそっ
と宴会場をあとにしました。ロビーを横切ると平身低頭の製作部さんや演出部のチーフ。激怒しているロケ現場の住人。本当のロケ現場に急行する製作担当。困り果てている旅館の人達。その横を知らない振りでスナックに向う私たち。「今日の現場はロケ・ハンしてね〜んだな、監督もキャメラマンも何も言わないで撮ってたし、N村も写真一枚、図面一枚も無いし!」とY田さん。「製作主任が適当な農家を見つけ、写真だけでOKもらったからだな!」とH原さん。「肝心の製作主任は現場に来ないで、地図も適当に描いて進行や車両部さんに配ったんですね!」と私。「だいたい撮影に来ているのか?飲みに来ているのか判らない様な撮影隊だからな」とY田さん。「外に飲みに出かければ、今から『ロケに行きます!』と製作に言われても探せないだろう、俺は絶対に行かね〜ぞ!」とH原さん。「そうだ、そうだ!!」相槌をうつ私。その夜はいつになく盛り上がり、製作体制の悪口をいいながら騒ぎ、旅館にいつ帰ったかも記憶がありませんでした。

明けて翌日からは撮影隊は何もなかった様に順調に仕事をこなし、無事にクランクアップしたように記憶しています。今となってはあの番組のテレビ放送を見たのか見なかったのか記憶が曖昧ですが、撮影だからといって人の家に勝手に上がり込み、家の中を撮影用に飾った記憶だけは忘れられません。ただ、部屋中を掃除しロケに来る前より数倍も綺麗にさせていただいたので、私たちだけはあの家族に許してもらえているのではないかと勝手に思っています。

携帯電話やカーナビの普及している現在のロケ隊では考えられない体験ですが、この件以降ロケ・ハンや美術打ち合せだけはしっかりやらないといけないと肝に銘じております。しかしあの家や家族はその後どうしたのでしょうか?カラフルな下着の柄とともに最近よく思い出されます。



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