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 の心つく頃より、父のアトリエで遊んだ。壁には樹もれ日の中の少女がほほえんでいた。母にそっくりなひと女人がもろ両肌抜いで髪を洗っている図に、胸の高鳴りをおぼえた。

が生まれて一年たって父はなくなり、そのアトリエは無人であったが、幼少の私にとっては、唯一の隠れ場所であった。油絵具のチューブをひねると、異国の匂いの色がねっとりと押し出て来るのであった。

表紙の画集をあけると森の中の天使が翼をはためかせていた。花園の中の乙女達が、じっと私の方をみつめていた。想えばそれらは一九世紀末の「ラファエル前派」の画集だったのであろう。あり得ぬ女体が神々しくも色つき写真となって、ささやきかけてくるのであった。そんな頃、宝塚大劇場でメーテルリンクの「青い鳥」を見た。突然舞台いっぱいに青い鳥の羽が広がり、何という美しさであろうかとびっくりして見とれた。現在もなを、仕事初めの一瞬の間に、その頃のたどたどしい想いが語りかけて来る。それらは脈絡の無い筈なのに、私にとっては、イメージの宝石箱なのである。

実の世界がありのままの表情で語りかけて来る日々、うなずいたり拒否したりのわずらわしさは、みんな消えて無くなれ!とばかりに想うことがある。あるように想えてそれは無く、無いと想えば、それは実存すると、そんな問答巡りのロジックが私の神経をさいなむ。映像の洪水 思考停止 智の遊戯 そしてその為の叱咤激励の時間。

れらはとめどなくつらなって安易となる。「初心忘るる勿れ!」の語が廻転する。こんな筈ではなかった。幼時の頃の想い、あの新鮮な樹々の葉のゆれ動きとこぼれるような陽の散華。多くの先人先輩達の偉業が立ちはだかる。

き人達よ、乗り越えよ自己一新のみである。
 

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