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北川 弘
北川 弘『若き頃の映画美術への回想』

昨年の忘年会の折、映画美術に携わる様になった動機など、当時の事を書いてもらえないかと依頼された。そこで恥を承知で思いつくままに過去を振り返り記した次第です。
何しろ戦後兵役から復員して間もない空虚な日々を送っていた頃、自分のやりたいことを色々考えて出来得る仕事に就いて模索していた。
当時、友人で映画助監督をしていた先輩から、今度東横映画という会社が映画製作を始めるのにあたり、京都の撮影所でスタッフを求めているという紹介があった。既に中学校の美術教師の職も決まりかけていたのだが、映画製作という道の世界の物作りの方が創造的にも魅力を感じるところがあり、硬派よりも軟派な方で仕事をしたいと心に決めていた。

学生時代に松竹撮影所で美術のバイトを少しした経験があり、早速に入社試験を受けるということになった。幸か不幸か昭和二十二年四月にスタートしたばかりの東横映画京都撮影所の美術助手として入社した。(※昭和二十六年東京映配、大泉映画、東横映画の三社が合併して東映となる)
思えばそれが映画人としての始まりで、それから五十年近く浮気もせずに映画美術一筋に人生を過ごして来たことは、それ以外に能が無いのか、映画の魅力が常に自分を引きづり今に至ったとしか言いようがない。

若い頃の私は映画美術よりも本来、舞台装置家という仕事に興味を持っていた。舞台という視覚に訴える造形の魔術に夢を持たせる造形美術としての達成感の様なものを感じていたからだろう。

私は学生時代に日本画を専攻していたが、将来画家になるつもりは全くなかった。現実的にそれは才能と努力がものを言い、経済的にも逆境に耐える意志が強くなければならない面もあり、尚更孤独の中から創り出す創作の世界には絶えられないし、小説家が原稿用紙に一字一字文字をうめてゆくような孤独な作業に似て、そんなことを継続してゆく忍耐力があるかと思うと否定的な答えしか返ってこなかった。 

怠惰な自分には適さないと痛感していた。反面、集団の中で物を造っていく課程を楽しむ仕事の方が自分には向いていると安易に考えていたが、結局その方向に仕事を選んだということになってしまった。

思えば戦後という時代の変貌の中にあって、仕事を探すのは限られた範囲でのことであったし、欲張った希望は捨てなければ物事は実現しないという心境であった。振り返ると私の入社して初めての仕事は東横映画第一作目の「心、月の如く」稲垣浩監督作品であった。
新米の美術助手として撮影中のセットに張り付いていて映画製作のノウハウを体験した。撮影終了後はデザインのコピーに追われた。当時はカーボン紙を何枚も重ねて手書きでのコピーで時間が掛かったが、デザインを作る上では勉強になった。

その頃は映画美術の仕事とは具体的にどんなことをするのか、と他人から聞かれる程理解されていない面もあったし、中には映画館の絵看板を描くのですか、と言う人達もいる位で、撮影や照明等の現場を見れば直ぐにわかる分野と違い、理解を得るのに一苦労するほどだったが、現在はさすがにテレビの普及等もあって大よそのことは知られる時代になってきたと思う。

私は映画の良き時代に仕事が出来た一時期があったが、その頃昭和三十年代後半に美術監督協会の書記を暫くつとめたことがある。当時協会の事務所は新宿コマ劇の裏にあり、そこで月一回ほど理事会を開いていた。松山崇、浜田辰雄、北猛夫、中古智、下河原友雄、今井高一など諸氏が顔を揃えて何時も美術監督のあり方や映画芸術論を、時には酒をくみ交わして語る姿に強い感銘を受けた若き思い出として今も新鮮に脳裏に残っている。

難しいことだが、今の若い会員の人達が映画美術という仕事に情熱を持ち続けてゆくことによって映画美術の仕事をしてみたいと思う人達が少しでも出てくることを願わずにはいられない。まさに継続は力なりと言えるのではないか。

現在「映画美術スタッフ塾」を始めとして対外的にも映画美術に関心を持つ若い人達にアピールしてゆく努力がなされていることは意義のあることだと思う。将来こういった地味な努力や行動が稔りあるものに結実することを願わずにはいられない。全員の努力に感謝したい気持ちが一杯だ。日本に一つしかないテレビ映画美術監督協会独特の行動がみんなの関心を持つ様な組織に発展してゆくことを念じて止まない。

 

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