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めぞん一刻

太田 喜久男

マンガの原作を映画(映像)化っていうのはここ最近の流行(ハヤリ)である。あの映画も、このTV、あの連ドラも、みんなみんなマンガが原作である。ぼくもいくつかそんな作品に参加させてもらった。
 昨年と今年、二度にわたって放送された『めぞん一刻』(一作目)本木克英監督、二作目 赤羽博監督)はテレビ朝日系の2時間15分のスペシャルドラマである。原作は高橋留美子さんの大人気コミック。25年以上も前に連載されたマンガだが、TVアニメにもなり2年間放送されている、何度か単行本は増刷されてるから、電車の中で読んでる若いひとも見かける。僕も昔読んだ。
 この話をもらった時、僕は東京を離れて、映画のロケで島根にひと月ほどいたのだが、その時まわりの連中にこのドラマ化の話をすると、主役の響子さん役は誰?いつ放送?とやたら聞いてくる。このマンガの知名度はなかなかのもので昔からのファンも多い。監督の本木さんも松竹の大船撮影所時代からの知り合いだし、高橋留美子さんは、あの『うる星やつら』も描いている。そんなこともあってこの仕事、受ける事にした。

 早速地方ロケ中に古本屋をまわり、全15巻のうちの14巻を揃え、久しぶりに読みあさった。ストーリーはきわめてシンプル、「一刻館」というオンボロ二階建てアパートに住む浪人生が、新しくやってきた管理人の女性に恋し、同じアパートの住人によけいなおせっかいをされながら最後はゴールイン(結婚)するというお話。 ギャグ的な要素もあるのだが、主人公のあまりにもひたむきな恋の行動は、今のストレートな恋愛ドラマとは違って、等身大というか、非常に純朴なのだ。このマンガの人気のひとつはそこにある。このマンガを実写化するにあたって、何が大切だろうか。まずは個性豊かなキャスティング、それはもちろんである。そして我々美術部に課せられる仕事は、やはり一刻館だ。『めぞん一刻』というタイトルが示す通り、背景にあるオンボロアパート「一刻館」はこのマンガのもうひとつの主役だ。

【一刻館】建物はさほど大きくはないが、木造の学校建築を思わせる切妻屋根の二階建てアパート。平方向の中心に玄関があって、二階屋根の真ん中の勾配部分に、三角屋根の時計が付いている。 これが、ファンの知る一刻館の風貌であり、これと室内も含め、今回どこまで再現できるのか?製作に関わる人は知っていると思うが、TVスペシャルといえどもそれほど予算に余裕があるわけではない。ずいぶん前に映画化されたと聞いたが、その時の一刻館の表は、ロケセットに時計台を加工したものと聞いた。残念なことにぼくは見ていない。でも予算的なことを考えると、それが一番リアリティがある。ロケハンで何カ所か回ってみたが、うまいこと改造できそうな建物が見つからない、しっくりこない。でも美術の立場とこの作品の思い入れでいえば、オープン建ててえなぁーって感じになる。

 表部分、オープンセットを建てるとそれだけで一千万は有に超す。室内のセット(部屋ふたつ、一階廊下、二階廊下、階段まわり、物干台、裏庭など)を台本に沿って作るとなると、平気で2、3千万位かかっちゃう。どうしたものか。  TV局の内山プロデューサーと製作側の岡田プロデューサーのおふたりも、何度か話をしていただき、このマンガに情熱あって、ようやくオープンセットのOKをもらった。こちら側の節約のアイデアは、まず表のオープンは2フラット(正面と右サイド)。室内のセット、廊下はひとつで一階と二階を飾り替えで表現する事に。オープンは今はなき東宝ビルト、室内は日活撮影所に組む事となった。
 「よーし、マンガを参考に図面を」
と、見取り図をイメージしながら描こうとすると、これが思う様に進まない。平面を作り出し、寸法を付けてくとなかなか辻褄があわない、そうするとオープンの図面につながらない。予想に反し難航した。
 一階と二階の同じ位置に、廊下と貸間が三部屋ある。ここまではいいのだが、一階左奥には管理人室、二階左奥には屋根裏に続くドアがある。単純に思えた建物の裏側にシンプルでない造りが存在するのだ。マンガでは背景の全体像が表現されない事がある、これは演出意図としてあたり前の事だ、現在のマンガは、この見えない部分も設定資料として作っているのだろうが、当時はそういうものは存在しなかったと思う。これは原作を責めているものでなく、マンガはマンガで曖昧なところがよいのだ。大昔アニメ化された「タイガーマスク」も見せ場であるリングの大きさは本物と違い、えらく大きなものだった。それがよかった。その時のストーリーに力があれば、曖昧が自由にセットを描くのだ。

 図面を進めるうちに面白い事も発覚した。僕の助手や装飾部、演出部が一刻館について調べだすと、じつにマニアックな本が見つかった。もし一刻館が存在した場合の築年数や間取りを計算し、当時の物価を含むと大家さんにどれだけの家賃収入があるだろう、とか、いろんな角度から「一刻館」を分析している本が出版されていたのだ。どれだけモノ好きがいるんだろう。
都内の図書館で見つけたらしく、コピーを見せてもらった。作者はファンなのか、それとも作家なのか、なかなか興味深いが、恐ろしい。その本にも確かにザックリとした見取り図はあったが、残念、図面に結びつかない。
 アニメも参考にしたが、畳サイズにその家具が収まらない、ほんの少し、もがき苦しみながら、室内のセットの図面を引き、オープンの図面に取りかかった。そしてもうひとつ問題にぶつかった。屋根の上の時計台である。
 すでに話した通り、このマンガは人気がある。根強いファンもいる。台本も原作に合わせ作られてる。
 二階の屋根に乗り管理人さんが屋根の修理をしている、心地よい空の下、あお向けで居眠りをする、そこに浪人生現れ近づく、突然雨が降り初め、立ち上がり駆け出す、このエピソードは原作、アニメ化にも描かれたファンにはよく知られたお話である。が、昼寝する屋根の勾配だと、時計台の大きさがかなり小さくなってしまうのだ。マンガの曖昧さと実写で再現しようとするギャップをここに感じた。マンガは建物の棟以上に時計は突き出ていない。それが出来れば、時計台もバランスも良いのだが。

 う〜んどうしよう?わざわざ造ってマンガと違うのはどうなのか。滑り台のような勾配だと昼寝するにはリアリティがなくなるし、危険である。ここはリアリティを追求しつつ、4寸勾配と3寸勾配の間にし、時計をギリギリまでの大きさにした。(しかし本音はもっと大きくしたかった。)時計もあまり小ささを感じないように、室内セットに合わせていたオープンセットの平方向寸法を、三尺短くした。したがってセットの廊下とオープンの長さは違うのだ。これは監督に話していないナイショの話である。

 結局、棟までの高さが4間近くあるオープンセットの屋根の上で、芝居は難しいし、キャメラ位置の制限が出てくるので、低い位置に屋根の一部分を造ることになり、オープンセットがひとつ追加となった。室内のセットの方も原作に近い形で再現したが、自分なりの解釈もつけ加えた。風呂なし共同トイレにしては廊下の流し(台)の数が多い気がしたり、貸間の各部屋に流し台もいらないだろう、廊下も少し生活感を出し83年設定なので、当時の小道具を多めに発注して、僕のよく知る京映アーツのメンバーが小道具を飾りつけてくれた。 オープンと室内のセットを同時に建て込み、忙しく数日が過ぎ、ある程度決まりを付けた頃、夕暮れのオープンセットに黒いコートを着た女性が現れた。よく見ると岡田プロデューサーも一緒だ。その女性がマンガ家の高橋留美子さんである。ご挨拶させていただいた、日活のセットを見たあと、このオープンに立ち寄ってくれたのだ、携帯で写真を撮っている様子だった。思えばこの世界に入って『アイドルを探せ』の吉田まゆみさん、『仁義』『本気(マジ)』の立原あゆみさんに続く、高橋留美子さんが、ご挨拶できた三人目の漫画家である。「セット」を喜んでいただいたと聞いた、僕の中でひとつ区切りがついた気がした。

 この話をしているうちに気づいたが、今年前半に関わっていた映画もマンガが原作だった。来年初夏公開予定となる 『MW(ムウ)』(岩本仁志監督)が手塚治虫さんの作品である。この作品で手塚さんとお会いする事はもちろん出来なかったが、お話の軸になる打ち合わせには手塚プロの方々を含め、参加させてもらった。このマンガもずいぶん前に発表されたものだが、ぼくは読んでいない。いろんな人の話を聞いているうちに原作と映画化の違いや、この映画のねらい所がわかったので、今回は原作を読まずにこの撮影にのぞんだ。『鉄腕アトム』などのキャラクターものと違う社会派なので、あまり手塚さんの絵にカチッと合わせる必要はないと思ったのだ。今回の映画はマンガと同じ世界観をもっているが、アクション性を高めて製作された、原作は原作でなかなか凄いサイドストーリーがある。あとでマンガを読んだが、手塚さんもこんな事描くの、という所もある。おそいかも知れないが発見である。

 撮影が終わった後も編集に首を突っ込まさせてもらい、映画『MW(ムウ)』も思い入れのある作品となった。マンガを映像化。美術にとっては窮屈な場合もあるが、少し違った角度で見ると、製作意欲を持たせる魅力もある。

 最後に『めぞん一刻』のキャスティングを紹介しておく。

ヒロイン音無響子……伊東美咲
五代裕作……中林大樹(新人)
四谷さん……岸部一徳
六本木朱美……高橋由美子 
一の瀬花枝……岸本加世子

加えてもうひとつ、『忍者ハットリくん』の映画化、あれは慎吾くんの顔メイクでよかったのだろうか。                             

 


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