美術監督協会について
著作権についての取り組み
COPYRIGHT
著作権については、監督、美術、撮影、照明、録音、編集、スクリプター、シナリオ作家の8団体を統合する日本映像職能連合(映職連)においても取り組みが行われておりますが、美術監督協会においても独自に美術監督の著作権ということに対して取り組みを始めました。
今後、著作権ガイドブックを作成する予定である。
第一回 映画美術監督の著作権についての勉強会の実施
- 日時
- 2019年1月17日
- 講師
- ライツ法律事務所
弁護士・弁理士 伊藤 真 様
講義内容
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Ⅰ著作権について
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著作権による保護の特徴
- 表現したものを保護する
思想又は感情それ自体、表現する手法や表現を生み出したアイデア自体は保護されない。 - 相対的独占権にすぎない(絶対的排他権がない)
偶然、同じものが著作された場合にはそれぞれに著作権が認められる。 - 無方式で権利が発生する
登録等の手続きは不用(登録原簿等なし) - 条約による国際的保護
ベルヌ条約、万国著作権条約
(原則として特別の手続きなしに内国民待遇が得られる) - 保護期間が長い
創作の時から著作権者の死後70年(原則)
(団体などは公表後70年) - 人格的利益の保護の制度が存在
著作権者人格権、名誉声望の保護が認められている。
- 表現したものを保護する
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Ⅱ著作権侵害の場合の思考の順序
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著作物が創作されているか
著作物の定義
「思想又は感情を創造的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は、音楽の範囲に属するものという。」(2条1項1号 著作物性) -
著作者は誰か
「著作物を創作する者」(2条1項12号)
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著作者の権利が侵害されているか
- 著作者人格権
著作者に帰属する譲渡できない権利(59条) 公表権(18条) 氏名表示権(19条)
同一性保持権(20条) 名誉声望を害する利用行為(113条3項) - 著作権(著作財産権) 著作権は「権利の束」である。
複製権(21条) 上映権(22条の2) 公衆送信権等(23条) 頒布権(26条)
譲渡権(26条の2) 貸与権(26条の3) 翻訳権、翻案権等(27条)
- 著作者人格権
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使用許諾契約が締結されているか、契約で許諾された利用の範囲か
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著作権の制限により無許諾で利用できる行為か
私的複製(30条) 付随対象著作物の利用(30条の2)
付随対象著作物の利用(30条の2) 検討の過程における利用(30条の3)
引用(32条) 営利を目的としない上映等(38条)
公開の美術の著作権等の利用(46条) 出所の明示(48条)
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Ⅲ著作権の保護期間
- 原則:著作物の創作の時から著作者の死後70年を経過するまで (51条)
暦年計算 cf.戦時加算 - 無名又は変名の著作物の保護期間・・・・公表後70年(52条)
- 団体名義の著作物・・・・公表後70年(53条)
- 映画の著作物の保護期間・・・・公表後70年(54条)(2003年までは公表後50年)
旧法(昭和46年より前)では、独創性のある個人名義の映画の著作物については、著作者の死亡時から起算して38年間存続する。・・・チャップリン事件、黒澤事件
- 原則:著作物の創作の時から著作者の死後70年を経過するまで (51条)
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Ⅳ著作権法は、映画の著作物について特別な扱いをしている
- 映画の著作物の著作者(16条)
- 映画の著作物の著作権の帰属(29条)
- その映画の中には、別途、音楽、絵画や彫刻(美術の著作物)が撮影されている。
それらは別途、音楽や美術の著作物として保護される。 - その他 映画の著作物の同一性保持権・・・パロディ等
要点抜粋
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美術監督が描いたスケッチや図面は、美術監督の著作物である。
作成経緯の中で、他者から何らかの示唆(こんな感じの構成にして欲しいなどの希望など)
があったとしても、著作権法では、表現したものが著作物で、その前のアイデアなどは保護されない。従って、実際に表現したものを作成した美術監督が著作者であり、著作者の権利を持つ。ただし、製作会社が宣伝広告のためにパンフレットの中にスケッチや図面を掲載したりすることはあると思う。法的には、映画製作者がそのような利用を行うことを美術監督が許諾しているということになる。許諾は、「慣行に基づいた黙示の許諾」の場合ということも十分に考えられる。映画の中で用いられるセットとして美術の著作物を作成している場合、それが映画の中で自由に利用されることを当然の前提として作成していて、そのような利用を許諾しているということになる。
もし、美術監督自身が自伝や作品集の中にスケッチや図面を掲載することは、事前に特別な契約をしていない限り、法的には製作会社に許諾を取らなくてもよい。但し、社会人の仁義として一言声をかけるというのは当然の話である。
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著作権は、特別に登録する必要がない。
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映画は、プロデューサー、監督、美術監督、撮影監督、音楽監督などによる共同著作である。
(原則として、助手は著作者ではない。)
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映画の著作物の著作権は、映画製作者に帰属する。
映画製作者とは、映画を企画して、実際に資金を調達し、興行成績等についてリスクを負っているという者である。
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映画のセットで絵画などを飾る場合は、著作権者の許諾を取らなくてはならない。
許諾を取らないのであれば、自分で作るかもしくは、誰かに作ってもらうしか方法はない。
背景として使う場合は、気をつけないといけないし注意が必要。 -
屋外での映画撮影の場合、看板やネオンサインやいろいろなものが自然と映りこむが、付随対象著作物の利用(30条の2)として認められる。ただし、殊更に映しこむのはダメ。
質疑応答例
- 番組でうさぎのマスコットをデザインして作ったんですが、そのマスコットを商品化したりLINEスタンプとして販売したいと打診がありました。
その場合、著作権使用料として何%かの報酬を請求できますか? - 大前提として、うさぎのマスコットのデザインは、独立した美術の著作物ということになり、その著作者・著作権者は、その作成者になる。契約により映画製作者に著作権が譲渡されていない場合には、商品化などの利用についての権限まで映画製作者等に譲渡されているとはいえないと考える。
従って、番組の宣伝などとは別個の商品化利用については、別途、製作会社側等と再度利用についての契約を結ぶことになる。
著作権使用料の相場については、守秘義務があるので公にされていないため確かな事は言えませんが、ミッキーマウスなどの有名なキャラクターだと7%~10%かもしれませんが、相場としては、商品販売価格の3~5%ぐらいではないでしょうか?
私的には、5%だと少々高いなという感覚です。LINEスタンプのような場合には、あまり製作原価がかからないので、著作権使用料も高くなったりすると思います。
こちらが著作権使用料を丸々もらうということもあり得ない話ではありますが、元々番組があって生まれたキャラクターで、製作会社に料金の徴収などの事務処理などをしてもらうことがあったりするので、この場合は、製作会社側が窓口となり使用料を折半するという形も多く取られているのではないかと思います。
- 映り込みの話で、ロケなどの場合はどうしても映ってしまいますが、著作権侵害になりますか?
- ケースバイケースですが、1/3でも半分映っても十分、著作物を利用していることになります。
複製権侵害を考えるときに、例えば、大きな絵画の中の一部に描かれている蝶々をワンポイントでTシャツにプリントした場合、それは、絵画の中に占める割合にかかわらず著作権侵害になります。
但し、ロケなどでどうしても映ってしまう場合は、現行法上は映り込み(付随対象著作物の利用。30条の2)として侵害にはなりません。
「映り込み」と「映し込み(敢えて映した)」は区別が難しいケースがたくさんあります。
たまたま絵画の前に人が立っていてその人が映るのは「写り込み」ですが、敢えて絵画の前に立ってもらって撮影したら「映し込み」です。
ただし、映像それ自体からは判別できないことも多いと思います。
この映り込みの規定は、26年改正で設けられた規定なので、今までは映り込みとなかなか言えなかったのですが、今は言えるようになったという事です。
なお、建物にある壁画や屋外に設置された彫刻は、恒常的に設置された美術の著作物ということになるので、映したとしても著作権侵害にはなりません。
映画の場合の私たち美術監督の著作権に関しては、映画の中で、自由に包括的に追加使用料なしで使える権利を許諾してください。という話なので、映画が10年ぶりにリバイバルで上映されてもずっと使い続けられる契約として、特に期限も決められているわけではありません。
ただし、映画と切り離したところで使われるのは許諾の範囲を超えた利用として著作権侵害になります。
- 契約書は常に作るようにしなければなりませんか?
- 実務の慣行としてきちんとした契約書を作らないことが多い、多かったと想像しています。
私は、無理に契約書を作成しなくとも、後日になっても合意の内容がはっきりしているような記録を残しておけばよいと考えています。契約書を交わさないような仕事を頼まれた場合は、メールでポイント(仕事の内容、納期、金額など)を確認しておくことをお勧めします。
電話や口頭でやりとりした場合であれば、お礼を兼ねてその内容を書いてメールしておくだけで全然違います。さらに担当者だけではなくその上司や関係者など複数の人にc.c.で送るとなおよいと思います。
メールは、裁判などでは改竄できるので証拠能力が弱いとは言われてますが、意図的な改竄をして誤魔化すという人は、業界からはじかれてしまうのでまずいないと思います。口約束だけだと、勘違いをしたり、約束の内容が曖昧だったりしてトラブルになるので、そのようなことを防ぐには、お礼も兼ねたメールを送って内容を確認しておくのはオススメの方法だと思っています。
これは、許諾を取るなどの時も同じで、許諾してくれた担当者と権利者本人にメールを送っておくと後々のトラブルを大きく減らせます。
- 著作権を放棄しろという話があった場合も契約書を交わさない方がいいですか?
- 「放棄しろ」という意味は、「著作権は譲渡。著作者人格権は不行使」という合意をしろ、ということだと思います。
その時の力関係にもよりますし、どのような流れでどのような著作物についての話しであるかによっても答えは異なると思います。
理不尽な要求がなされる場合で、看過できないような事態になった時には、個人で対応するのではなくて団体として対応することもひとつの方法だと考えます。
会社は、理不尽な要求をしているとして社会的な非難を浴びることには注意していますから、団体で対応したり抗議したりする方法も一つの手段だと思います。
団体にそういう情報が集まってくることと、それを団体として問題にして対峙するということで、個人の問題にしないことが大切だと思います。
- 未払いの問題にはどう対処すればいいですか?
- 日本人の特性としてあまり強くは催促できない方が多いので難しいですね。
もちろん法的には、支払督促とか方法はあるのですが、そのような手段が執りがたい場合も少なくないと思います。
諦めないのであれば、小まめに請求をし続けるしかないだろうと思います。
数百万円の場合は、ちゃんとした対応を取れますが、少額の未払金は困ります。
「忘れてないよ!きちんと払ってね。」という意思を示し続けるしかないと思います。
個人の名前で書留を送るだけで本気度が伝わることがありますし、会社相手の場合、担当者よりも上のポストの人に連絡するとよい場合もあります。
担当者はいい加減だけど、上司は真面目な人でということもあり得ます。